ニュースで報道がありましたように、赤岳鉱泉・行者小屋で小屋番をしてくれた田口篤志がパキスタンのスパンティークで遭難して行方不明になってから1週間が経ちました。
このタイミングでこのようなことを書くことが適切なのか分かりませんが、僭越ながら小屋番の盟友として書き綴りたいと思います。
あつしとの出会いは私が21歳の2009年でした。彼は2008年から赤岳鉱泉で小屋番としての生活をスタートしていて、偶然にも誕生日が1日違いの同年齢ということで親近感が湧いたことを覚えています。当時はお互いに社会経験がゼロで山小屋に飛び込んだ世間知らずの若者だったので最初の頃は小屋の皆さんに迷惑かけまくりでしたが、八ヶ岳で出会う人たちや厳しい自然環境化での仕事に鍛えられて、気がつけば赤岳鉱泉で15年の歳月を切磋琢磨しながら過ごしてきました。
これまでに山を通じて数えきれないほどの人たちと出会ってきましたが、あつしとはなぜか意気投合して、お互いにこいつとならなんでもできるし乗り越えていけるという信頼関係が構築された盟友のような存在になっていきました。
また、あつしは人懐っこい性格なので冬の赤岳鉱泉には毎週のように友人、知人、お客様が訪れてくる、小屋番界の著名人でした。
今回の遭難はお世話になっている山岳ガイドさんからの一報で知ることになり、15年もこの業界に身を置いていると仲間や知り合いが山で命を落とすことは決して珍しいことではないですが、これほど親しい人になると言葉では言い表せないほどの悲しみが込み上げてきました。
しかし、想像を超える悲しみと辛さを感じて、いちばん困難な状況に置かれているのは彼のご家族だと思います。
1日でも早くあつしが帰宅できることを心から祈っています。
また、同じく遭難されて残念なことにご遺体で発見された山岳ガイドの平岡竜石さんとも赤岳鉱泉は深い関わりがありました。
これまでに赤岳鉱泉アイスキャンディの足場組立協力、アイスクライミング講習会への講師協力、アイスキャンディフェスティバルへの運営協力など多岐に渡り、安全登山の啓発とアイスクライミングの発展にご尽力いただきました。
これまでの功績に感謝を申し上げる共に、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
卓越した登山経験・技術と強靭なフィジカルを持ち合わせた実力者のお二人であっても、現地で実際に何が起こったのかは知るよしもないですがこのような結果になってしまうことが山の恐ろしさであり、より思慮深く、山と真摯に向き合うべきだと改めて痛感するところです。
しかし、やはり山は素晴らしいところですし、小屋番という仕事をやっていたからこそあつしというかけがえない盟友にも出会えたことは私にとって一生の宝物です。
あつしが教えてくれたことをしっかりと胸に刻み、あつしが築き上げてくれたことをしっかりと継続していけるように、明日からまた新たな気持ちで小屋番という仕事を通じて山の素晴らしさを伝えながら、引き続き安全登山啓発活動に取り組んでいきたいです。
赤岳鉱泉・行者小屋 四代目当主 栁澤太貴